2019/05/23

2019年5月 邉見由美(京都大学森里海連環学教育研究ユニット 特定研究員)

 私の実家は吉野川の支流の山中にあり、祖父母がアメゴの養殖場を営んでいました。小学校は同級生が一人しかいない環境で、遊び相手はもっぱらアメゴという毎日でした。小さいときはアメゴの餌やりを手伝うと、おやつとしてアメゴを食べさせてくれました。味噌焼きか塩焼きか選ばせてくれましたが、わたしは塩派でした。また、休みのときには、水槽の掃除やアメゴの仕出しにかかる選別、採卵・受精作業を楽しく手伝っていました。鳥の羽を使ってボールの中に入れた精子と卵をかきまぜる作業は、今でも目に浮かぶ特別な思い出です。

 社会科の教員になろうと高知大学へ入学して1年ほど経ったある日、環境教育の授業で吉野川のほとりの中学校を訪れました。中学生と川の生物調査をしていると、大きなドンコが目に入りました。彼は、口の中いっぱいに魚を頬張って、食事の最中でした(図1)。どういうわけか、彼のことが気になって、結局、帰りの車ではバケツに入った彼を連れていました。環境教育の先生から水槽一式と実験室の一画をお借りして、ドンコ飼育の日々が始まりました。彼は生きた魚はもちろん、冷凍アサリも食べてくれました。ちくわは皮をむいてあげていました。バレンタインにはハート型のかまぼこをあげたのですが、硬かったようであまり食べてくれませんでした。とてもとても可愛いドンコ。思い出はたくさんありますが、彼は1年と少しの間で亡くなってしまいました。その頃、気がつくと、私は社会科ではなく、生物学の研究室に配属されていました。いま思えば、餌づけされていたのは私だったのでしょう。

 私のビジネスパートナーとなったのは、ヒモハゼです。大学4年生で卒業研究をはじめる時に出会いました。ヒモハゼは、時にはウナギの稚魚と間違えられるような、名前の通りヒモのように細長いハゼの仲間です(図2)。彼らは、干潟に住む準絶滅危惧の魚類ですが、その生態はよくわかっていません。甲殻類の巣穴に出入りするという情報もあります。このハゼが本当に甲殻類の巣穴を利用しているのか、どの程度どのような使い方をするのかを明らかにするため、水槽観察を行いました。ヨコヤアナジャコという干潟に住むエビに巣穴を掘らせてヒモハゼの行動を記録するという手法は、小さい頃から水槽飼育を身近に経験してきた私にとってはとても自然な観察方法です。この手法を用いて次々と貴重な結果を得ることができました。日本では、アナジャコ類の巣穴を使うハゼとして、他にウキゴリ属でも数種が知られています。水槽観察とともに、ヤビーポンプ(釣り餌を巣穴から吸い出す器具)を使って、ハゼの種間で巣穴利用の頻度や宿主の甲殻類が異なるようだということがわかってきました。もう一つ、私の行う調査方法は、レジン(ポエリエステル樹脂)を用いて巣穴の鋳型をとることです。これによって、ウキゴリ属のエドハゼがニホンスナモグリの巣穴の特定の部位を改変して産卵巣をつくることもわかりました。

 昨年度から、流れ藻のポスドク生活がはじまりました。魚類の研究で著名な舞鶴水産実験所で過ごしており、これから舞鶴生活2年目が始まります。最近の課題は、テッポウエビとハゼの相利共生の関係の解明に取り組むことです。いまのところ水槽とヤビーポンプとレジンが武器ですが、いずれ潜水観察にもチャレンジしたいと思っています。

図1 食事中のドンコ
図2 ヒモハゼ
新プロジェクト
「RE:CONNECT」
スタート