2019/06/11

研究者と市民が集う「学び舎」をつくる (森里海連環学教育研究ユニット特定助教 赤石大輔)

 特定助教の赤石大輔です。森里海連環学教育研究ユニットでは社会連携の担当をしています。今回のTOPICSでは本ユニットが目指している社会連携について、森里海連環学が始まった当初の理念を振り返り、また近年求められている市民と科学者の協働について紹介しながら、私たちユニットが目指す社会連携の在り方や、目指すゴールについて紹介したいと思います。

 

・森里海連環学の目標
 森里海連環学という学問は、フィールド科学教育研究センターの初代センター長を務められた田中克先生により、フィールド研が設立された2003年に提唱されました。田中先生が著書「森里海連環学への道」の中で、

「森里海連環学は、大学内の学問だけでなく、住民が人と人、人と自然、自然と自然のつながりのたいせつさに思いをはせ、人々が「力を合わせてみんなで生きていこうよ」という意識を共有しながら住民が進化させていく学問である」
「「森は海の恋人」の世界を科学する新たな統合学問領域であり、社会運動と連携して初めてゴールに到達する」

と書かれているように、当初から森里海の連環を取り戻すためには、社会の多様な主体との連携が必須であることが示されてきました。また、森里海連環学の社会連携を深めていくという趣旨で、2005年には「社会連携教授」(Professor of Field Studies and Practical Learning)として、「森は海の恋人」の提唱者である畠山重篤氏と、作家のC・W・ニコル氏(2010年まで)に就任いただき、今日まで森里海連環学の教育研究に様々なご助言、ご協力をいただいています。

 そして社会連携活動としてこれまで「時計台対話集会」、「由良川フォーラム」、「古座川プロジェクト」、「仁淀川プロジェクト」、「地域循環木文化社会創出事業」など、シンポジウムや住民参加によるワークショップ、地域の団体等との共同研究を多数実施してきました。現在の我々ユニットの活動はこのような取組の積み重ねの上に立っています。

 ところで、そもそも森里海連環学ではなぜ社会連携が必要なのでしょうか。また、なぜ今様々な分野で、市民と科学者との協働による研究活動が求められているのでしょうか。そのヒントとなる超学際研究という新しい学問の動きと、その必要性について少し紹介したいと思います。

 

・学際、超学際、学び合いの姿勢
 「学際研究」とは、物理学、心理学、歴史学など各分野の学問の垣根を超えて、研究者同士が学び合い協働で研究に取り組み、新しい知識やより包括的な理解を促す研究活動です。そして「超学際研究」とは、研究者と社会の様々なステークホルダー(例えば行政、企業、教育関係者、メディア、NPOなど市民団体)との、実社会での問題解決に向けた協働取組のことを指します。

 ウィキッドプロブレム(Wicked problem)、科学のみでは解決困難な「厄介な問題」をこう呼びます。地球温暖化をはじめ今世界中で起きている問題は、環境、経済、社会のあらゆる側面を含む複雑で解決困難な問題です。そしてそれを解決しない限り私たちの未来は暗いものになるのではないか、ということも多数の研究から予測されています(詳細はFuture Earth http://www.futureearth.org/asiacentre/jaなどをお調べください)。

 このような厄介な問題に取り組む際には、研究者と社会の多様なステークホルダーが超学際的な研究チームを形成して知識や経験を持ち寄り、立場を超えた対話と熟議を通して、

・研究計画の共同立案(co-design)
・知識の共同生産(co-production)
・成果の共同展開(co-dissemination)を行い、
・課題解決に向けた意思決定を共同主導(co-leadership)すること、

が重要であるとされています。

そして、研究者はステークホルダーへ科学的・専門的知識を一方的に提供するだけではなく、さまざまな実践的知識から学ぶなど、互いに学び合う姿勢(mutual learning)が重要であるといわれています(詳しくは近藤・林 2018*)。

 森里海連環学教育研究ユニットが対象にしているのは河川の分断をはじめとする森、川、里での人為の影響が、海の生産性にどう表れてくるか、そしてその分断が引き起こす複雑で困難な問題を解決するために社会とどう協働していくか、ということです。そのためには、まさに超学際的な研究アプローチが必要で、多様なステークホルダーとの協働が不可欠なのです。我が国の環境基本計画を見ると、行政分野も森里海連環学の哲学が我が国における持続可能な社会の基本的な考え方になりうると考えていることがわかります。

 

・国の施策としての森里(川)海
 森里海連環学が提唱されてから16年、その哲学や研究成果は発展途上であり、まだまだ国内での認知度は低い状況です。本ユニットでは各研究グループが最新のデータや解析手法を用いて、これまで明らかにできなかった森里海のつながりとその分断の影響を明らかにするため、日夜研究に励んでいます。

 一方、我が国の持続可能な社会に向けた施策として、第5次環境基本計画に「地域循環共生圏の創造」という項目が加わりました。

環境省HP第5次環境基本計画(https://www.env.go.jp/press/105414.html

 地域循環共生圏とは、各地域が自立・分散型の社会を形成しつつ、それぞれの地域の特性に応じて近隣地域等と共生・対流し、より広域的なネットワーク「森・里・川・海の連関や経済的つながり」を構築することで、農山漁村と都市が地域資源を補完し支え合いながら発展していく姿としており、森里海連環学の哲学と多くを共有しています。

 「つなげよう、支えよう森里川海」は、環境省が地域循環共生圏の推進で使用しているキャッチフレーズです。環境省では今後、全国各地でこの地域循環共生圏のモデル地域を選定し、「森里川海のつながり」による持続可能な社会づくりの事例を創出していくとのことです。

 では、農山漁村と都市が支え合っていくために必要なことは何なのか。そのような問いから、私たちの研究グループでは、研究者と市民がともに森里海の現状を学び、その再生に向けた協働アクションを起こしていく場づくりをはじめました。
そのひとつが市民向け講座の「京(みやこ)と森の学び舎」です。

 

・研究者と市民が学び合うプラットフォームを創る
 主に都市住民を対象とした本講座では、1年間の受講期間に座学とフィールドワークに参加して森里海連環学について学び、受講後は私たち研究者と共に、各地域で森里海のつながりを再生する活動に取り組むパートナーとなっていただくことを期待しています。現在、京都市はじめ各地から20代から40代を中心に多様な職種の方々24名が参加していただいており、3回の座学と1回のフィールドワークを実施したところです。皆さんとても意欲的で、また研究者との対話の機会を評価してくださっています。

取組詳細(LAP記事リンク):https://linkagain.kyoto-u.ac.jp/news/news-278/

 そして都市部だけでなく、上流地域での学び合いの場づくりも進めています。由良川の源流である南丹市美山町の皆さんと、芦生の森や、由良川の水、地域の伝統知などを守り伝えていくためのプラットフォームが徐々にでき始めてきました。一例として、美山町の女性グループ「つなガール美山」の皆さんと京大のコラボ企画として、美山の水のおいしいを科学するというテーマでイベントを開催し、地域の方と一緒に水質について知り、各地の水や美山の水で作ったお料理を味わいました。

 水の味ってこんなに違うのか!という驚きと共に、それがなぜなのか、森から水はどのように作られるのか等を皆で共有しました。このイベントをきっかけに、由良川の水質を保っている芦生の森の現状を地域の皆さんと共有し、保全と活用に向けたアクションを起こしていこうと考えています。

 その他、美山町内では地域資源探索や子供たちへの環境教育、そして観光推進に資する研究を地域の方々と協働で進めています。また美山町以外の地域でも、全国各地で高校生を核とした地域での森里海連環学の実践を進めていく予定です。

 これらの協働取組の中で、研究者と市民の双方の知識や経験を学び合い、試行錯誤を繰り返しながら、森里海連環の再生に向けた、新しい知恵を創っていきたいと考えています。

 

*近藤康久, 林和弘 (2018) オープンサイエンスの社会課題解決に対する貢献-マルチステークホルダー・ワークショップによる予測-. 科学技術・学術政策研究所(NISTEP).

京と森の学び舎の参加者と共に芦生研究林のシカ害と植物保全の取組について学ぶフィールドワークを実施
美山の団体「つなガール美山」とのコラボレーションにより、美山の水質について学ぶイベントを開催
新プロジェクト
「RE:CONNECT」
スタート