2019/08/22

森里海連環を現場で学ぶ~講義「森里海連環の理論と実践」の現地実習~ (森里海連環学教育研究ユニット特定准教授 清水夏樹)

百聞は一見に如かず~現場で森里海連環を体験する
 京都大学では、2013年4月に森里海連環学教育プログラムを開講し、学際・国際的な視野と知識を持つ人材の育成を目指してきました。日本財団との共同事業として実施された本プログラムは、2018年3月までの5年間で208名の修了生を輩出し、現在も京都大学のUNESCO Chair WENDIのコースの一つとして続いています。
 このプログラムには、学問的な専門分野だけでなく、社会・文化的背景も多様な学生・スタッフが参加しています。皆で一緒に森里海連環を知り、考え、失われたつながりをとりもどす、あるいは新たなつながりを創るために、まずは「現場で何が起こっているのか?」を実体験する機会を設けてきました。2013年度は日帰りのスタディツアーを開催、2014年度からは地球環境学舎の科目「森里海連環の理論と実践」の講義として、事前の座学3回と1泊2日の現地実習が実施されています。実習の対象地域は、滋賀県近江八幡市です。

 

なぜ近江八幡?
 近江八幡市、とくに八幡山(鶴翼山)と西の湖の周辺では、歩いて回れる範囲で森里海連環(森-里-海(湖)のつながり)を体感できます。
 歴史的な町並みや重要文化的景観に指定された水郷地帯、琵琶湖や西の湖をめぐる豊かな生態系、郷土料理や祭りなどの文化、そして、これらをまもってきた地域の方々の活動内容やその歴史を現場で学ぶために、これまで、地域のご協力の下でさまざまな実習プログラムを試行錯誤してきました。森里海連環学教育研究ユニットと連携の覚書を交わしている、たねやグループの拠点施設「ラコリーナ近江八幡」内には、フィールドステーションとして利用させていただいている「京都大学 森里海近江八幡分校」があります。実習では、このフィールドステーションを活用して、グループワークや採取試料の分析を行っています。

 

近江八幡での実習1日目
 6回目となる今回の現地実習は、2019年7月13日(土)、14日(日)に実施され、15名の大学院生と6名のスタッフが参加しました。参加者は、5人ずつ、①白王町・権座における景観保全と地域づくり(権座グループ)、②円山町のヨシ産業・文化の保全(ヨシグループ)、③西の湖・北之庄沢周辺の魚類調査(魚グループ)に分かれてグループワークを行いました。
 実習1日目は、まず、八幡山からの谷水、祠(ほこら)で守られているわき水、有機栽培水田の用水と排水、ヨシ原や水田に囲まれた水郷地帯や歴史的な町並みに続く八幡堀など、土地利用や植生が異なる7地点で、水質の測定と分析のためのサンプル採取をしました。水質の測定機器を初めて使う学生は測定の仕方や測定値の読み取り方を実地で学び、記録なども分担して行います。作業を始めた頃は日が照って蒸し暑かったのですが、途中から雨が降り出し、作業しにくい中で、学生たちは協力して作業を進めていきました。
 昼食後は、グループに分かれて、それぞれの調査先に向かいました。
 権座グループが訪ねたのは白王町地区、西の湖から琵琶湖に流れる長命寺川北岸にある集落です。大中之湖干拓以前は半農半漁の集落で、日常生活や農作業でも小さな舟で行き来をしていたところでした。「権座」はそのころの風景を残す浮島の水田です。実習では、権座に田舟で渡り、水郷の景観、環境を観察するとともに、「権座・水郷を守り育てる会」の大西實さんから、地域の景観保全や地域づくり活動についてのお話をうかがいました。
 ヨシグループは、近江ヨシの主生産地である円山町地区を訪ね、西川嘉右衛門商店の西川嘉武さんから、ヨシ産業の変遷やヨシ製品についてお話をうかがいました。続いて集落内を回りながら、「まるやまの自然と文化を守る会」の鳥飼和夫さん、宮尾芳昭さんに地域の伝統行事、そしてヨシ地の景観や生態系の保全について解説いただきました。そして、ヨシで作られたペンを使う体験もしました。
 魚グループは、北之庄町地区の水田横の水路で生物の採取調査をしました。ご指導いただいたのは、琵琶湖博物館うおの会の中村聡一さんです。雨の中、多くの生物を採取し、フィールドステーションに持ち帰って種類を同定し、生息環境や外来種の影響について解説を受けました。
 夕方には、午前中に採取した水サンプルの化学分析を行いました。ラヴェルニュ特定講師の指導の下、全員が分析作業を体験しました。その後、各グループでお世話になった方々、たねやグループの社員の方々にも参加いただき、意見交換交流会を行いました。鮒寿司、ホンモロコ・コアユなどの佃煮など郷土料理を試食し、会の終わりには宮尾芳昭さんによるヨシ笛の演奏もあり、近江八幡をたっぷり味わった一日となりました。

 

近江八幡での実習2日目
 実習2日目の朝は、柴田昌三教授の解説を受けながら、八幡山の麓の竹林を見学しました。20142015年度には実習プログラムの中で竹林整備も行っていましたが、この季節は伐採に適さないため、以降は観察のみを実施しています。2日目の実習拠点は、旧市街地にある町家を利用した研修施設「おうみはちまん生業・交流のいえ」です。まず、近江八幡市のまちづくり会社「まっせ」の田口真太郎さんから、地域の活性化のためのさまざまな活動について解説いただきました。その後、空き町家の活用事例や八幡堀の復活・保全活動について、旧市街地を実際に見て回りました。
 午後は、近江八幡市内にあるヴォーリズ学園近江兄弟社高等学校の生徒4名が、近江八幡の伝統的な祭りである「左義長(さぎちょう)」についてプレゼンテーションをしてくれました。本実習には外国人留学生・スタッフも参加しているため、英語でのプレゼンテーションをお願いしたところ、しっかりと準備をしてきてくれました。質疑応答(こちらは通訳つき)にもはきはきと答え、その後、各グループに高校生に加わってもらい、実習課題についてのグループ内ディスカッションを行いました。
 高校生を実習のゲストに迎えるというこの取り組みは、今年度初めての試みでした。高校生の地域への関心や、学んだことを将来の地域の活動につなげたいという姿勢は、大学院生にも強い印象を与えたようです。本実習後に参加者が提出したレポートには、高校生にどのように地域の活性化・環境保全活動に参加してもらったらよいかを考察したものが多くありました。

 

実習の成果を発信する、地域につなげる
 実習から2週間後の7月26日に、京都大学において、グループワークの成果報告会を行いました。各グループは日本語と英語を併記した発表スライドを準備し、森里海連環に関する地域課題の分析・検討結果と、課題解決に向けた地域への提案を発表しました。
 権座グループは、社会(若者によるコミュニティ活性化イベント)・経済(6次産業化による雇用促進)・環境(農地における循環型流出水利用モデルの導入)について、それぞれ詳細な提案をしました。ヨシグループは、ヨシ産業の活性化に向け、大学生がヨシ収穫に参加し地域住民との交流を行うこと、また、ヨシを原料とした製品の高付加価値化について提案しました。グループメンバーの外国人留学生の意見を、皆で具体的に検討してまとめた内容でした。魚チームは、実習で多くの外来種が採取されたことを基に、水郷地域での固有種の減少や生態系の劣化を課題として採りあげ、料理教室や給食で外来種生物について学ぶ食育・環境教育を提案しました。
 各発表に対しては、実習でお世話になった方々から質問や講評をいただきました。今年度も充実した成果を得られましたが、学生たちの提案を具体的に地域でどのように実現していくかがユニットとしての毎年の課題となっています。成果報告会の最後にも、3つのグループの成果を総合的に議論する機会が必要だとの指摘がありました。
 筆者の研究フィールドの一つがこの近江八幡です。研究活動と並行してこの実習を行う中で、地域のさまざまな方々とのつながりを得て、森里海連環の再生に向けて動き出している活動もあります。今回の新しい取り組みである高校生との連携もその一つです。地域の方々と一緒に森里海連環を創っていく、近江八幡でそんなモデルを示すことができたらと考えています。

写真提供協力:赤石大輔(森里海連環学教育研究ユニット)、貫名涼(地球環境学堂)

西の湖に続く水郷での水の測定とサンプリング
八幡堀の水の測定とサンプリング
ヨシは太さや長さ別に用途が異なります
ヨシで作られたペンの書き心地は
魚グループの調査
採取した生物サンプルの同定
水サンプルの化学分析
竹林の調査
近江八幡市街を歩きます
高校生も参加したグループディスカッション
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