2019/08/29

2019年8月 赤石大輔(京都大学森里海連環学教育研究ユニット 特定助教)

 子供のころから科学者になりたい、ということを言っていました。小学校の卒業文集にも、将来なりたい職業に「科学者」と書いていたようです。それにしては好きな言葉には「根性」と書くという、どちらかというと体力勝負な子供時代でした。残念ながら身近にモデルとなる大人がいなかったので、科学者や研究者がどういう仕事なのか全く想像がついていませんでした。また先のことを考えるのも苦手で、大学入試が近づくまで将来のことは特に考えず毎日サッカーをしていました。大学を選ぶ際にも、生物の研究をしたいとは考えていましたが、農学部は農業だけを学ぶところだと決めつけ、理学部の生物学科のある大学に行かねばと考えていました。揚げ句に同級生が受けると言ったからじゃあ俺も、という理由で金沢大学を受験しました。

 受験に際しても金沢大学について全く下調べをしておらず、どんな先生がどんな研究をされているかも知りませんでした。しかし入学試験の面接でお目にかかった一人の先生に強い印象を受け、合格したらこの先生の研究室に行きたいな、と思いました。晴れて合格し、早速先生のところに話を聞きに行こう、と思ったものの、その先生のお名前も覚えていなかったことに気付きました。覚えているのはお顔、というかヒゲだけでした。ヒゲを目印に先生を探してご挨拶をすると、何だか雰囲気が違います、話がかみ合いません、全く別のヒゲ先生でした。その後、ようやく正しいヒゲ先生に出会うことができました。

 その方は中村浩二先生、入学以降、博士からその後の能登での研究プロジェクトを含め18年間にわたりご指導いただき、現在も大変お世話になっている恩師との出会いでした。中村先生の「大学でなくてはできないことを大学らしくないやり方でやっていく」という言葉とともに2006年に奥能登の珠洲市で開始した、能登半島里山里海自然学校(http://www.satoyama-satoumi.com)での常駐研究員としての経験が、今の私の大きな財産になっています。

 中村先生には本当にいろいろなことを教えていただきましたが、お酒を飲んだときに伺った芦生での研究のお話はとても楽しく、長治谷の小屋に長期滞在して毎日テントウムシを数えていたお話など、強く印象に残っています。中村先生は京都大学農学部ご出身で、1970年代に芦生研究林でアシウアザミ(当時はカガノアザミとされていたが1996年に新種記載)につくヤマトアザミテントウ(当時はコブオオニジュウヤホシテントウとされていた)の研究をされ、個体群生態学の分野で大きな功績を残されています(Nakamura and Ohgushi 1979)。

 しかし近年、芦生研究林ではシカによる食害でアシウアザミは激減し、シカ除けの柵を作り保護している状況です(伊勢・前田 2018)。アシウアザミを食べていたヤマトアザミテントウの姿も見られなくなったといわれています(KATO and OKUYAMA 2004)。長治谷の小屋も2003年の大雪でつぶれてしまいました。時間の流れとともに研究が発展したり、生態系が大きく変化したり、人が作ったものが無くなったりと、芦生研究林を取り巻く様々なものの変化がありました。

 しかし変わらないものもあるようです。昨年、私が初めて芦生研究林を訪れ、地域の方にご挨拶した際に、中村先生をご存知の方がたくさんいらっしゃいました。不肖の弟子ですとお伝えすると喜んで昔話を聞かせてくださいました。このように本当に貴重なご縁の中で、自分が今の活動をできていることに驚き、多くの方々に感謝するとともに、芦生の森再生ための活動を軸に、森里海連環学の発展に寄与していきたいと考えています。そしていつか「私の専門分野は森里海連環学です」と言えるような研究を作っていけたらと考えています。

 

参考文献
・KATO M, OKUYAMA Y (2004) Changes in the biodiversity of a deciduous forest ecosystem caused by an increase in the Sika deer population at Ashiu, Japan. Contr Biol Lab Kyoto Univ 29:437–448.
・Nakamura K, Ohgushi T (1979) Studies on the population dynamics of a thistle-feeding lady beetle, Henosepilachna pustulosa (Kôno) in a cool temperature climax forest I. The estimation of adult population parameters by the marking, release and recapture method. Res Popul Ecol 20:297–314.
・伊勢武史, 前田雅彦 (2018) 京都大学フィールド科学教育研究センター・芦生研究林. 日本生態学会誌 68:75–80.

能登半島里山里海自然学校での環境教育事業の様子
能登の地域の方向けのきのこ観察会の様子
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