2019/09/03

釣りの経済効果と地域振興を考える (フィールド科学教育研究センター教授 山下 洋)

 日本の沿岸漁業漁獲量が過去30年間減り続けています。1985年の漁獲量は227万トンでしたが、2016年には99万4千トンとついに100万トンを下回りました。日本の沿岸漁業は危機的な状況にあると言うことができます。一方、日本には海だけで500万人の釣り人がいると推定されており、釣り(遊漁)により漁獲される沿岸魚介類(魚だけでなくイカ類なども含む)の量もハンパではないと考えられますが、それに関する統計値や調査結果はほとんどありません。釣りによるインパクトを含めずに資源を適正に管理できるとはとても思えないのですが、日本では、沿岸漁業資源の管理において遊漁は全く考慮されていないのが現実です。その原因のひとつとして、遊漁の経済的な価値評価がほとんど行われていないことがあります。地域産業としての遊漁の重要性が認識されていないので、漁業資源のステイクホルダーとして認知されていないことが考えられます。

 世界に目を向けますと、遊漁が盛んなアメリカなどでは、遊漁産業の経済規模は漁業の10倍程度と見積もられています。フロリダ州だけで遊漁関連産業が10万人の雇用を支えているという試算もあります。天然の魚は日本では原則として無主物ですが、アメリカでは州が管理する重要な資源です。アメリカで釣りをされた方はご存じかと思いますが、多くの州では釣りにライセンスが必要です。例えばワシントン州の州民(resident)のライセンス料(年券)は、淡水魚27.5ドル、海水魚28.05ドル、貝・海藻14.3ドルなどです。私が1999年に調査した際のテキサス州の海釣りライセンス収入は28億円でしたので、近年ははるかに多いでしょう。その収入は主に、栽培漁業センターの運営費や資源・環境管理などの予算に使われており、沿岸資源の管理を支える財源は遊漁産業と言うことができます。当然、漁業者だけでなく釣り人も参画した持続的な漁獲を目標とした資源管理が行われており、釣りにおいても、魚種ごとに厳しく捕獲数、捕獲サイズ範囲、漁期、漁場などが決められています。これと比較すると、日本の海釣りに管理と言える決まりはほとんどなく、釣り放題の無法状態が続いています。

 そこで、当研究室研究員の寺島佑樹さんが、丹後海(伊根~宮津~舞鶴)において、2年間毎月釣り人にアンケート調査を行い、その経済効果を推定しました。その結果、岸釣り、遊漁船、マイボートを合計した丹後海における総釣り回数は約20万回にのぼり、釣り人が使ったお金(エサ代、仕掛け・ルアー代、遊漁船代、マイボート維持費、ガソリン代、有料道路料金など)は年間54.6億円となりました。これを同じ海域の漁業による総漁獲金額である30.2億円と比較しても、遊漁の産業としての重要性をみることができます。この中には釣り人の飲食費、宿泊費、土産代などは含まれていません。これに加えて、釣りのような文化的な価値を経済評価する指標のひとつとして、消費者余剰(CS)というものがあります。これは、釣りから得られる釣り人の満足・充足度に対する金銭的評価額から釣りの実コストを引いた額であり、釣りの楽しみの純粋な経済価値とも言えるものです。丹後海における釣りのCSは、年間199.4億円と推定されました。さらに、アンケートの分析により、もっと大きな魚がもっと多く釣れるのであれば、CSはさらに30億円ほど増加し、魚が減れば40億円ほど減少するという結果も得られました(Fisheries Science誌に投稿中)。

 日本では地方の人口減少と経済活動の低下が大きな問題です。地域の環境や魚介類資源を自然資本ととらえて、それを有効活用することは地域振興における現実の課題です。上に述べた消費者余剰を、欧米では当たり前になっているライセンス購入に反映させることができれば、資源の適正な管理や培養に使う予算を確保することができます。適正な資源管理による安定した釣り場環境の提供は釣り人の追加的利益をもたらし、地域経済の一層の活性化につながると考えられます。ライセンス制の導入が難しくても、せめて漁業資源管理に遊漁漁獲の影響を含め、釣りを重要な関係産業として、漁師と釣り人がともに資源管理と地域の振興を考える仕組みが必要ではないでしょうか。

防波堤釣り(小浜漁港)
夕暮れの防波堤釣り(舞鶴小橋漁港)
海釣り用毛針(フライ) これで海の魚も釣れる
ルアーと毛針で釣れたメバルとカサゴ(舞鶴湾内)
毛針で釣れたスズキ(由良川)
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