2019/11/20

そもそも森里海は連環しているのだろうか? (フィールド科学教育研究センター准教授 伊勢武史)

そもそも森里海は連環しているのだろうか?―仮にも、森里海連環学教育研究ユニットの研究プログラム長をおおせつかっている私がこのような疑問を持つのはどうかとご批判の向きもあるとは思いますが、この重要な研究テーマにおいて大切な役割を担っているからこそ、私は科学者としてバカ正直に、この疑問を胸に研究を続けなければならないと考えているのです。

そもそも科学とは、現象を客観的に観察・分析し、そこにひそむ真理を見出し、みんなが分かるように表現することだと考えています。よく「科学と宗教のちがいは何ですか?」ということを聞かれるのですが、そのときは「科学には反証可能性があるところが、根本的なちがいです」と答えるようにしています。

反証可能性ということば、あまり聞きなれないかもしれませんが、実は科学者たるものみんな、この概念を念頭に置いておかねばなりません。科学者は、なんらかの仮説を提唱し、その仮説を証明したり反証したりするためにデータを取ったり実験したりするのがメインの仕事なわけですが、科学が科学であるためには、自分の仮説が反証される余地を残しておかねばならないのです。実験する前から、「自分の仮説の正しさが証明されるに違いない、もし仮説に反する実験結果が出たら、それは実験のミスだから無かったことにしよう」なんて心がまえでは、それは科学とはいえないのです。

というわけで森里海連環について考えているのですが、このような大事なテーマが相手の場合、特に私たちは、客観性を忘れないようにしなければなりません。「森は海の恋人」とはけだし名言ですが、それ自体は、単なるポエムということもできます。このポエムを科学にするためには、研究者の主観を排除して、結果をありのままに受け入れるこころを忘れてはならないのです。

現代の科学では、自然界の法則のすべてを観測することは不可能です。私たちに観測できるのは、森里海をまたぐ世界で生じている無数の現象の、ごくごく一部であるといえるでしょう。科学者は、原始的なアナログラジオを手に、意味のあるシグナルをキャッチしようとがんばってる人にたとえられます。アナログラジオのチューニングをでたらめに回せば、聞こえてくるのはノイズばかりですが、注意深くゆっくりと回していくと、意味のあるシグナル(言葉や音楽など)が聞こえてくるゾーンにあたることがあります。さらに指先に集中して微調整をすれば、存外クリアに、シグナルをキャッチできることもあります。こうやって、短波放送で地球の裏側の南米のラジオを受信できたときの喜びはひとしおでした(年齢がバレますね)。

森里海連環についても、状況は似たようなものです。私たち研究者の前には、膨大な陸上のデータと、これまた膨大な海のデータがあります。ただ漠然とながめていたのでは、陸と海のつながりを見つけることはできません。そこから得られるものの大半はノイズだからです。ノイズばかりずっと聞いていると、たまに「いま人の声が聞こえた気がする」なんて思うこともありますが、それは幻聴だったりします。科学者も、思いが強すぎると幻聴を聞くことがあるので、注意が必要ですね。

こんな雲をつかむような研究なのですが、最近私は、強力な道具を手にすることができました。それはコンピュータです。コンピュータは、人間の手作業では天文学的な時間がかかってしまう作業を、一瞬で終わらせることができます。この能力を使えば、何千・何万という「ラジオ」を自動的にチューニングして、森里海連環のシグナルをキャッチすることが可能になります。人間と違って、単なる機械であるコンピュータは、主観に惑わされることもありません。最近特に注目しているコンピュータ技術は、ディープラーニング・スパース推定・グレンジャー因果推論で、これらの技術で、今まで誰も実証することができなかった、森里海の連環を発見することが私のテーマです。

研究は、思いどおりにいかないことが多々あります。「こうあってほしい」と願っていた森里海連環が発見できなかったり、反対に、思いもよらなかったつながりを見つけられたり。こんな毎日の試行錯誤が、いつか森里海連環の法則の解明に役立つ日が来ることを夢見ています。そして、この法則が確立できればこそ、「海を守るために陸で○○をしよう」と胸を張って言えるようになるのです。

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